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薄明

07/05/01

   

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コルダ小話



「オーデ・トワレ?本当にそれにするのかい?」
「うん。ダメ、かな」
「いいや。そんな事はないけれど」
 
バレンタインのお返しに火原が香穂子に何を贈ろうか悩んでいる事は柚木も知っていた。何を贈ればいいと思う?と聞かれたときはプレゼントなら身につけるものが一般的で喜ばれるんじゃないかとアドバイスをしたが、具体的なものは火原が決めるべきだとも伝えていたのだ。火原のことだから指輪を贈るほどの勇気は出せず、ネックレスか髪飾りあたりだろうと思っていたのに。まさか香水を選ぶとはさすがの柚木も想像がつかなかった。
 
「どうしてオーデ・トワレなのか聞いてもいいかい?」
「うん。最初はさ、ネックレスとか、ゆ、ゆ、指輪とかがいいかなぁと思ってたんだけど・・・」
 
やはり柚木の考えていた事ははずれてはいなかったようだ。ならばなぜそれが変わったのだろう。戸惑うように黙ってしまった火原が先を続けやすいように柚木は首を傾げてみせた。すると意を決したように火原は少し早口で話し出した。
 
「でもさ、学校に行ってるあいだは外さなきゃならないし。それにバイオリンを弾くときにも邪魔になるかなぁって。そういうの気にせずにずっとつけてられるのなんだろうって考えたんだ。そしたらオーデ・トワレがいいんじゃないかなって」
「・・・なるほどね」
 
真っ赤に頬を染めていう火原に柚木は相づちをうった。
火原本人に自覚はないようだが香水を贈るのは独占欲の現われだ。しかも、かなり強力な。実際に目に見えてわかる指輪やネックレスなどよりよほど意味深長でセクシャルなプレゼントなのだから。
コンクールやアンサンブルで一緒だった者たちは香穂子からほのかに立ちのぼるオーデ・トワレの香りにすぐに気づくだろう。そして香穂子のことだ、そのことに触れられればすぐに動揺するに決まっている。
 
「・・・まあ、それをからかうのは楽しいかもしれないね」
「え?柚木、なに?」
 
真っ赤になって慌てふためく香穂子をいじめるのはきっと楽しいだろう。柚木はそれを想像して少しだけ意地悪に笑う。
 
「いいや、なんでもないよ。それで僕にどうしてほしいんだい」
「あー、うん。買うものは決まったんだけど一人で買いにいくのはちょっと気後れしちゃって。だから柚木がついてきてくれないかなあと思ってさ。あ!もちろんちゃんと自分で選ぶから」
「ああ。かまわないよ」
「ほんと?!ありがと柚木!」
 
最初は少しいぶかしんだ火原も、柚木がついて行くというとホッとしたのだろう。じゃあ早速行こう!と柚木をおいて歩き出す。
そんな火原の後姿を見て、柚木は笑う。
 
きっと香穂子は最初に少しだけ驚いて、その後とても喜ぶだろう。そして火原は香穂子が喜んだことに安堵してから微笑むのだ。
簡単に想像できる単純なふたり。
 
でもふたりが笑っていられるならば、それを手伝うのは悪くない。
そうして柚木は自分の恋心に蓋をした。
 


アンコール 火原×日野←柚木
メセにて「火原は一人で香水とか買いに行けるのか?」「いや、奴には柚木さまがついてるから大丈夫!」という話をしたところから生まれました。火原と柚木の友情はいいですよね、依存しすぎてない感じが。タイロンは見習うといい(笑)
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